国債が格下げされ、ゼロ金利が今後2年間続く―。新たな現実に立ち向かう米国の債券投資家が日本の経験から学ぼうとしている。

今月5日、スタンダード&プアーズ(S&P)は米国の長期債を最上級のトリプルAから格下げし、9日には米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利政策を少なくとも2013年半ばまで継続すると表明した。それ以来、債券のトレーダーは運用モデルの見直しに着手、多くが、1998年にトリプルAの格付けを失い、10年近くゼロ金利政策を続ける日本の経験を生かそうとしている。

米国と日本を比較する動きは過去にもあった。しかし、トレーダーや投資家は、日米の共通点がここまで顕著になったことはないと指摘している。

モルガン・スタンレーで金利戦略を世界的に統括するジム・カーソン氏は「誰もが米国と比較できるデータを求めている。巨大かつ発達した債券市場がある国で最も類似したケースは日本だ」と述べた。「米国と比較できるのは日本だけ。まったく同じというわけではないが、最も近い」

ケネス・カットナー氏はニューヨーク連銀のエコノミスト時代、ドットコム・バブル崩壊後の米国がなぜ日本とは異なるのかについて論文を書いた。日本の不動産バブル崩壊後と比べれば、当時の米国の株価下落はそれほどひどいものではなかったし、金融システムは強固で、米国政府には財政的なゆとりがあり、景気が悪化すれば財政出動に乗り出せた。現在ウィリアムズ・カレッジ教授のカットナー氏は「当時は余裕があった」と語る。「今では、米国と日本は異なるとする根拠がなくなりつつある」

ウォール街では、かつては考えられなかったほどの水準まで落ち込んだ米国債の利回りと日本国債の利回りの比較が盛んに行なわれている。アナリストは、1998年の国債格下げ後、日本の債券市場がどのように動いたかを確かめようと過去の記録を調査している。

ストラテジストは、米国債10年物の利回りは今後数カ月のうちに現在の2.23%から2%を割り込む可能性があるとみている。日本の10年債利回りはしばらく前から1.05%前後で推移している。

FRBが9日にゼロ金利政策の継続を発表したことを受けて、短期国債の利回りも低下、日本と同水準となった。2年債の利回りは日本がおよそ0.15%で、米国は0.18%。1年債は日本がおよそ0.12%、米国は0.10%にとどまる。

RBS証券(コネチカット州スタムフォード)の国債担当チーフストラテジスト、ウィリアム・オドネル氏は日本の金利の推移に注目が集まっていると述べた。オドネル氏はさらに、ゼロ近辺の短期金利と長期金利の低下は「日本から学んだ教訓」だと述べた。

オドネル氏は、米国の10年利回りは2012年半ばまでに1.70%まで低下すると予想している。モルガン・スタンレーのカーソン氏は1.85%まで低下、場合によってはさらに下がるとみる(この予想はモルガン・スタンレーの正式な予測ではない)。CRTキャピタル(コネチカット州スタムフォード)の国債担当チーフストラテジスト、デビッド・アデール氏は今年末までに1.75~2.00%に落ち込むと予想している。

なんとか景気を回復させようと努力している政策当局にとっては警戒すべき見通しだ。債券投資でそこそこの利回りを得たいと思っている国民にとっては言うまでもない。さらに大きな懸念も生じている。それは、1990年の不動産バブル崩壊後の日本のように、米国も景気が長期にわたって低迷する「失われた10年」に突入する寸前なのではないか、ということだ。

この懸念は今に始まったことではない。金融危機以来、多くのアナリストや投資家が米国経済は日本の轍を踏むことになるかどうか問い続けてきた。

エコノミストは日本と米国では国債市場や政治制度、経済が大きく異なると指摘、何年もの間、この可能性を否定してきた。

確かに、両国にはまだ違いが多い。国債市場について言えば、最も重要な違いはインフレ見通しだ。

日本では10年以上、緩やかながらデフレが続いており、日本の投資家は価格下落が続くと予想している。固定利付き国債と物価連動国債の利回り格差(=期待インフレ率)から判断すると、投資家は日本では今後10年間、価格が低下すると予想していることがわかる。米国について同様のデータを見ると、米国の10年後のインフレ率はおよそ2.2%になる。インフレが起きれば、債券投資の運用益が目減りする。

また、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスとフィッチ・レーティングスは、今のところ、米国債について最上級の格付けを維持している。

しかし、新たな類似点も浮上している。その一つが、10年前の日本と同じように、米国が財政を引き締める可能性があるという点だ。

日本の不況は1990年代初めに始まった。90年代半ばまでには景気回復に転じたため、政策当局は97年に歳出削減と増税を実施、その結果、日本は不況に逆戻りしたと、カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者、星岳雄氏は言う。

米国経済が日本と同じ方向、つまり財政赤字への懸念から財政引き締めが行なわれる方向に向かっているのではないかと懸念する声も上がっている。給与税減税や緊急失業給付など景気回復のために実施されていた措置も期限切れが迫り、このような懸念から、エコノミストは経済予測の下方修正に追い込まれている。

星氏は、短期的には財政拡大の継続、中期的には財政再建が望まれていると指摘、その双方を実現することは容易ではないと述べた。

そうしたなか、景気を支える責任を負わされる格好になっているのがバーナンキFRB議長だ。議長は、これまで、日本の経験を警告として生かしながら積極的にデフレ回避に取り組んできた。

しかし、FRBが景気回復のために金融政策でできることはほとんどないとの声も聞こえる。

「米国は(日本銀行のような)過ちは犯さなかった。しかし、これは金融政策だけでは解決できない問題だ」とカットナー氏は述べた。

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