前列左から福井良氏、岡本明彦氏。後列左から篠原純一氏、清水隆好氏、牧隆史氏。

 リコーが2009年12月に発売した「GXR」は、“ユニット交換式”という珍しいシステムを採用し、大きな話題になっているデジタルカメラだ。

 GXR本体とカメラユニットを分けるアイデアはどのように生まれ、また開発はどのように進んでいったのか。企画のきっかけから将来のユニット展開まで、リコーの担当者に話を訊いた。

 お話を伺ったのは、リコーパーソナルマルチメディアカンパニー企画室 企画グループ 技術主担の福井良氏、同パーソナルマルチメディアカンパニーICS設計室 設計1グループ シニアスペシャリストの篠原純一氏、同パーソナルマルチメディアカンパニーICS設計室 設計2グループ シニアスペシャリストの清水隆好氏、同パーソナルマルチメディアカンパニーICS設計室 設計3グループ シニアスペシャリストの牧隆史氏、同パーソナルマルチメディアカンパニー企画室マーケティンググループ シニアスペシャリストの岡本明彦氏の5名。

 福井氏が商品企画、篠原氏がメカニズム関係、清水氏がエレクトロニクス関係、牧氏がソフトウェア関係、岡本氏がプロモーション関係をそれぞれリーダーとして担当した。

デジタルカメラでは珍しい“ユニット交換式”を採用した「GXR」(左)。手前は対応するカメラユニット。GR LENS A12 50mm F2.5 Macro(中央)とRICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC(右) お話を伺ったのは、カメラ開発の拠点となっている新横浜事業所

新しい撮影スタイルを提案

――まずGXRのコンセプトを教えてください。

福井:GXRは、“デジタル一眼レフカメラの画質の良さ”と“コンパクトデジタルカメラの機動性の良さ”の両立を狙ったシステムです。レンズ、撮像素子、画像処理エンジンを一体化することで、ベストマッチングな最適の画質を実現しています。また、撮影する対象ごとにセンサーを付け替えることで最適な撮影ができるという新しいスタイルの提案を考えたシステムです。

GR LENS A12 50mm F2.5 Macro(左)とRICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC(右)を装着したGXR

――ターゲットユーザーは?

福井:やはり写真好き、カメラ好きという方になります。どちらかというと、毎日カメラを持ち歩いて写真を撮る方ですね。今まではコンパクトデジタルカメラを使っていて、“もう1つ上の写真を撮りたい”、“コンパクトでは少し物足りない”と感じている方にこのシステムを使って貰いたいと考えています。

ユニット交換交換式によるメリット(発表会の資料より)

――デジタル一眼レフカメラユーザーにも訴求するのですか?

福井:一眼レフカメラを買っては見たものの大きく重いので出番が少ない、そういった方にもこのシステムであれば軽く小さくできるので、気軽に持ち出していい写真を撮って欲しいと思っています。今回レンズ交換式にしなかった理由の1つには、システムをできるだけ小型にしたいという部分がありました。

――リコーではGXRのほかに、GR DIGITAL III、GX200、CX2などのデジタルカメラをナインナップしています。そうした中でGXRをどう位置づけていますか?

福井:GXシリーズの新たなモデルということになります。我々は従来から“単機能のGR”、“拡張性のGX”という考え方をしているわけですが、今までのGXの拡張性をより高めたのがGXRです。弊社ラインナップの中で特に各モデルの上下関係を考えているわけではありません。ただ、リコーとして中心に来る機種ということであればやはりGRだと思っています。GRを芯にして、それを補完するものとしてGXやCXがあるという位置づけになります。

――GXRの発売がなぜ今(2009年12月)になったのでしょうか。何か技術的なブレイクスルーがあったのですか?

福井:撮像素子の開発速度が落ち着いてきて、1つの到達点に達したということが挙げられます。GXRは撮像素子ごと換えますので、撮像素子がどんどん進化していく中では陳腐化してしまいます。ですが、現状の撮像素子の能力からすると、1,000万画素を超えて一通りできあがっています。あとは、どういう方向に進化していくか? というレベルに来ています。そういう時代なので、センサーごと交換するというシステムが可能になったと考えています。またGRやGXが市場においてある程度のポジションを築くことができたので、そうした中でGXRのようなシステムを展開できるようになったのではないかと思います。

――ユニット交換式カメラという企画のきっかけは?

福井:GRシリーズを手がけている中で、ユーザからはGRに対して「もっと違った焦点距離のレンズを使いたい」、「もう少し大きなセンサーを載せることはできないのか」といった要望が出ていました。我々としても何とかそうした要望に応えていこうと模索していました。しかしGRの中にそうしたレンズや撮像素子を入れてしまうと、サイズやハンドリングの良さといった面でGRではなくなってしまうのではないかという懸念がありました。そこで、新しい形のカメラで応えようと考えたときにこうしたシステムになったということです。

 やはりGRは1つのソリッドな固まり、といった完成感を求めているところがあります。ですから例えAPS-Cサイズのセンサーを搭載した一体型のカメラを作っても、GXRくらいの大きさになってしまえば市場でもGRシリーズとは認知していただけないと考えました。

GXRのデザイン案

コネクタピン数は当初180本にも及んだ

――こうしたシステムの構想はいつ頃からあったのですか?

福井:GXRの開発が正式にスタートしたのは2007年です。ただ、ケーススタディとしてはその2年ほど前からになります。企画室の中ではこうしたアイデアが出ていたので、モックアップを作ってプロカメラマンなどに意見を聞いたりして案を練っていました。ちょうど初代GR DIGITALが出た後くらいから構想があって、実現の可能性について理論を蓄積していきました。

――ユニット交換式以外の案もあったのですか?

福井:当然、レンズ交換式というのも考えました。しかし、単純なレンズ交換式カメラよりも世の中にないものを提供していくのがリコーのスタイルという部分もあって、今回のシステムを採用しました。

――GXRの開発で特に苦労した部分はどの辺りだったのでしょうか?

清水:エレキ的に見ますと、コネクターの信号本数が膨大になってしまうのが問題でした。ユニットに撮像素子が含まれるため、CCDだったりCMOSセンサーだったりとすべての形式を包含しようとすると信号本数は170~180本にもなってしまいます。最終的には、共通のバスを作ることで68ピンに収めることができました。将来的に、カメラユニットには何が来るかわかりません。どんなユニットが来ても対応しなければならないため、双方向に通信できる仕組みも取り入れています。

GXR側のコネクタ ユニット側のコネクタ

 また、外付けEVFには高精細なVGA表示品を使用していますので、電磁波の不要輻射対策に気を遣いました。また撮影可能枚数はGR DIGITAL以上という方針があったため、小さなバッテリーでいかにショット数を持たせるかなど、これまでの技術を集大成して作っています。

 それからこのカメラはデザイン最優先で考えられていまして、レンズ鏡胴がユニットの上下の中心に来るようになっています。例えば、RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VCに関してはユニットに基板が2枚入っており、通常は2枚を片側に並べてレイアウトするのですが、レンズが中央に来るようにするために基板も上下に分けて実装する工夫をしました。なお、GR LENS A12 50mm F2.5 Macroの基板は後に1枚入っています。

RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VCの内部。レンズの上下に基板を分けて実装した 同ユニットからレンズを外したところ

福井:レンズの位置が中央に来るというのは非常に重要なファクターです。ターゲットユーザーが違和感を持たないデザインにする必要がありました。レンズを中央に置くことにはこだわりました。

篠原:カメラユニットのコネクタは68ピンでもかなり多く、一眼レフカメラのマウントはせいぜい10本に足りないくらいです。その端子を安定して接続するためにはどういったコネクタの方式がよいのかや、ユニットを取付けた状態で安定させる保持の機構はどうすればいいのかといった部分は未知の世界でした。一眼レフカメラも参考にはしましたが、全く違う機構であるため着脱機能や強度など信頼性の確保にメカ担当としては苦労しました。

GXRのスライドインマウント部分 ユニットはGXRの爪でロックする

牧:ソフトウェア面ではGXR本体とユニットで分割することで、“どの処理のどこまでをどちら側でさせればスムーズに処理ができるのか”という役割分担を考えるのが一番大変でした。加えて、将来起こりうるカメラユニットの進化にも対応できる互換性の確保にも腐心しました。

初期のモックアップ

当初は下側にもカバーのあるデザインで進めていたが、より大きなユニットを装着する可能性を考慮して3面を開けたデザインに変更した
EVFはレンズ構成別にモックアップを作成し、装着位置などを検討した VGA表示のEVF「VF-2」を装着したところ

GXRの多くの部分をGRやGXシリーズと共有

――GRおよびGXと技術的に共通な部分はどれくらいありますか?

篠原:“共通”の定義にもよりますが、メカに関しては概ね考え方は踏襲しています。それなりにGRやGXがハイスペック機種として認められていますので、デザインも含めてGR、GXを手本にして、そこから大きく変えなくて済むところは変えない方向で進めました。

清水:絵作りはGRを踏襲したというのもありますし、誤動作を防ぐ仕組みなどもGRやGXと共通になります。その上でレスポンスやバッテリーライフの向上、起動時間の短縮などを図っています。

牧:ソフトの大きな基本構造はGXなどと共有しています。

――GXRはどこで生産していますか?

福井:GXR本体が中国で、カメラユニットがタイです。GRとGXも中国で作っていますのでGXR本体は同じですね。カメラユニットに関してはタイの協力工場にお願いして新しい生産拠点としています。

――この価格に決まった理由は何ですか?

福井:難しい質問ですね(笑)。我々としてはGR、GX、あるいは他社のカメラおよびレンズを参考にして決めています。

RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC(左)とGR LENS A12 50mm F2.5 Macro(右)に搭載している撮像素子

――カメラユニットで一番コストがかかっているのは撮像素子ですか?

清水:そうなります。特にAPS-Cサイズの撮像素子は断トツに高価です。

福井:センサーほどではないですが、レンズにもかなりコストはかかっています。特に「GR LENS A12 50mm F2.5 Macro」で採用しているのは、我々がGRレンズと呼ぶ画質にこだわった特別なレンズですので。また、マグネシウムの外装にも比較的コストはかかっています。ただ、「コストを掛けたから良いものだ」と言うつもりはありません。安全性や信頼性なども含めてシステムとして最適にするために、結果としてそれなりのコストが掛かっているということです。

――現在、コンパクトデジタルカメラの国内シェアは?

福井:約3%です。海外でのシェアについてはお出しできるデータがないのですが、国内の方がシェアは高いですね。

――GXRの生産台数はどれくらいを予定していますか?

福井:月産5,000台で、GR DIGITAL IIIとほぼ同規模です。

――今後はGXRが販売の主になっていくのでしょうか?

福井:特定のモデルを主にしていく、ということは考えていません。どの機種も同じレベルで販売していきたいと思っています。

篠原:GXRに移行していきたいという意識は特にはないですね。GRとCXという柱があって、そこにもう1つGXRという柱を作るイメージです。

GXRはあくまで“コンパクトデジタルカメラ”

――GXR発表後の反響は?

岡本:GR DIGITAL IIIの時に比べると、同じ期間でメディアへの掲載は1.5倍くらいありました。非常に話題になっているという印象です。

福井:単純に、新しいカメラであることを褒めていただいた方が多かったです。また、我々が提唱するユニット交換式というシステムのメリットに共感してくださる方も少なくありませんでした。簡単にユニットを交換できることやホコリの混入を防げることなどが評価いただけているようです。

岡本:発表と同時に公式作例をWebサイトに掲載していますが、GR LENS A12 50mm F2.5 Macroで撮影した人物の写真には、描写の詳細さと背景のボケに関して好評な意見が寄せられています。

福井:GXRが全く新しくリコー1社が提唱していることなので、継続性についてやカメラユニットの広がりについて心配される方の意見もありました。良い意見と否定的な意見が半々くらいの感じでしたね。

岡本:今のところ発表しているのは3台目のユニット(28~300mmレンズ搭載ユニット)までですから、今後どういったユニットが出てくるのか知りたいという声は大変多いです。ただユニット着脱のユニークさだけに着目せず、それぞれのユニットと組んだ1台のカメラとしても、もちろんGXRは素晴らしい性能を持っています。是非、店頭で体感していただきたいと思います。

――業務向けとしての引き合いもあるのですか?

福井:今のところ、特定の業種に向けたユニットについて具体的な動きはありません。しかしGXRはそうした広がりのあるシステムだと思っていますので、光学系だけのユニットではない展開は考えていきたいです。

マイクロフォーサーズ機に対する小型軽量のアドバンテージを訴求していた(発表会での資料より)

――GXRは、マイクロフォーサーズ機よりも小型軽量という点を謳っています。ライバルはマイクロフォーサーズ機になるのでしょうか?

福井:システムとしては初めてのものなので、基本的に比較するものは無いと考えています。ただ、市場的に言うと“レンズが交換できるコンパクトなカメラ”という見方ができると思いますので、そういう意味ではミラーレスのレンズ交換式デジタルカメラが比較される対象になるとは思っています。

 しかし湯浅(リコー パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデントの湯浅一弘氏)も申し上げているとおり、我々としてGXRはコンパクトデジタルカメラなんですね。コンパクトデジタルカメラとしていかに機能拡張していくか、コンパクトデジタルカメラの世界をいかに広げていくかを考えているのがこのシステムです。ミラーレスのレンズ交換タイプというのはGXRとは逆の発想で、大きな一眼レフカメラをいかにコンパクトにしていくかという思想だと思うので、考え方としてはまったく違うと思っています。

――国内ではどのようなプロモーションを行なうのでしょうか?

岡本:GXRを初めて見た人はこれがどういうものか良くわからないと思います。そこで、見た人がコンセプトを直感的に理解できるようなプロモーションをまず行なおうと思いました。さらに、コンセプトを理解して貰った後に、画質の良さが伝わるものです。Webではスペシャルサイトを立ち上げました。そこでは、GXRを組み立てるイメージを表示することで、すぐに斬新なカメラというイメージがわかるようになっています。その後で作例をご覧いただく感じです。

 弊社はあまり派手な宣伝はしないのですが、カメラ量販店などにはGXRの体験コーナーを作りできるだけ多くの人に体感していただけるようにしました。また、いくつかの雑誌とコラボレーションした企画なども実施していきます。そうした場で良さを実感してもらえればと思います。

GR DIGITAL 1周年記念モデル(天使モデル)

――いわゆる「カメラ女子」にアピールするプロモーションも行なうのですか?

岡本:特に女性に特化したプロモーションなどは、現在のところ考えていません。男女の区別無く、GR路線というか、製品の良さが伝わるプロモーションで行きたいと思います。

福井:我々としてターゲットを女性だとか男性だとかで狙っているわけではありません。あくまでカメラ好き、写真好きに向けたプロモーションをしていくということです。ただ、GR DIGITALは1周年記念に“天使モデル”といった製品も出していますので、GXRでも遊び的な要素も取り入れては行きます。

――海外ではどのように展開していくのでしょうか?

岡本:海外は、主に欧州とアジアで展開することになります。この点はGRおよびGXと同じです。

福井:北米市場はちょっと難しいところがあります。機能といった部分にお金を払っていただきにくいんですね。例えばレンズが何倍ズームならいくら、何万画素ならいくらといったようにスペックで一律的に価格が決まってしまうところがあります。GR DIGITALだと「どうしてズームも無いのにこんなに高いの」と言われてしまう。我々はどちらかというと付加価値のあるカメラを提供しているので、その部分では受け入れられにくい市場なのかなとは考えています。今後も市場を広げる取り組みはしていきますが。

牧:小さく小さく作って機能がこんなには入っています、とやっても北米ではあまり受けないですね。

ユニットありきのボディサイズ

ユニットの着脱を検討するためのモックアップ

――GXRはどうしてこの大きさになったのでしょうか?

篠原:カメラユニットの大きさがどのくらいになるのか? ということになりますね。まず、GX200のレンズが入る大きさであり、かつ当初から考えていたAPS-Cサイズの撮像素子も入るという条件からユニットの大きさが決まりました。GXRの本体側は液晶モニター、バッテリー、ストロボ、電装関係があるので、それらをユニットの周りに配置したらどうなるのかと考えて、本体の大きさが決まりました。初めにユニットありきで、それにいろいろ付けていったという感じです。

 ユニット、GXR本体とも互いに接する面はおのおののカバーで2重になります。その分GR、GXよりも大きくなります。サイズに関して、高さが増しているのはそのためです。

 最初からAPS-Cサイズまでのセンサーを載せたいというのはありましたが、それ以上の大きな撮像素子という話しも当然出てきます。一番初期のデザインでは底面にもカバーがありました。それだとカメラユニットの大きさに制限ができてしまうので、メカの設計としてはもっと大きなセンサーが来ても大丈夫なように意識して3方向を開けています。

――マウント部分はどのように決まったのですか?

篠原:信号ピンの数が多いので一眼レフカメラのような回転マウントでの対応は難しい。そうするとコネクタ式になり、左右または上下のどちらかからスライドさせることになります。部材の構成を考えたときに最も容積が小さくなる方向として横からスライドさせることにしました。このように考えていくと必然的にこの形になります。

モックアップにおける着脱の変遷

側面のレバーでユニットを取外すタイプ
背面のスライドレバーで取外すタイプ
製品版と同じフロントのレバーで取外すタイプ。一眼レフカメラのレンズ取外しボタンと同様に、フロントにレバーを設けた方が自然との判断だった

(後編に続きます)

広告