1989年の天安門事件で、長安街を天安門に向かう戦車の列の行く手を1人で遮り、き然と立ち向かう若い男性がいた。彼の姿を近くのホテルの部屋にいた米国人カメラマンらが撮影した。後に世界中のメディアに繰り返して使われることになる有名な写真だ。しかし、写っている男性は一体誰なのか、その後どうなったのか、20年たった今も謎に包まれている。

 中国の民主化運動の象徴として、98年に米タイム誌に「20世紀で最も影響力のあった人物100人」に選ばれたこの男性は、天安門事件までに中国の民主化活動にかかわった形跡はなく、当時の大学生リーダーや知識人の中で彼を知る人はいなかった。その場にたまたま居合わせた普通の中国人若者の1人ではないかと推測されている。

 事件の直後、一部の欧米メディアは男性を「19歳の学生で、名前は王維林」と報じたが、すぐに「王維林は別人」と否定する別の報道もあり、いまだに真偽は不明だ。これまでに海外の民主化支援団体や外国メディアは男性に関する情報を収集し続けているが、その家族や知人すら見つかっていない。

 男性のその後について「すぐに処刑された」「刑務所の中で精神に異常を来した」「出所して台湾で暮らしている」など諸説が飛び交っているが、いずれも確認されていない。欧米メディアに「無名の反逆者」と呼ばれたこの男性のすべてを知るには中国で民主化が実現され、事件に関する資料が公開される日を待つしかないのかもしれない。

 
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